ドローン撮影は、その自由度の高さから、空撮映像の分野で急速に普及しています。プロの映像制作から個人の趣味まで、ドローンは様々なシーンで活用され、美しい映像を生み出すための重要なツールとなっています。しかし、ドローンに搭載されたカメラは、常に最適な状態で撮影できるとは限りません。特に、屋外での撮影では、太陽光の影響を大きく受けるため、映像が白飛びしたり、露出が過多になったりする問題が発生しやすくなります。
そこで、登場するのが「NDフィルター」です。NDフィルターは、レンズに入る光の量を減らすことで、これらの問題を解決し、より高品質な映像を撮影するための重要な役割を果たします。この記事では、NDフィルターの基本的な概念から、具体的な使い方、選び方、そしてFPVドローン撮影における重要性まで、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
NDフィルターとは?

NDフィルターとは、「Neutral Densityフィルター」の略称であり、カメラのレンズに取り付けて使用するフィルターの一種です。その主な役割は、レンズを通ってカメラのイメージセンサーに到達する光の量を均一に減少させることです。
「Neutral」という言葉が示すように、NDフィルターは光の量を減らすだけで、色味には影響を与えません。つまり、NDフィルターを使用しても、映像の色合いが変化することなく、自然な色を再現することができます。
NDフィルターの仕組みを理解するために、人間のサングラスを例に考えてみましょう。サングラスは、強い日差しの中で眩しさを軽減し、快適な視界を提供します。NDフィルターも、これと非常によく似た働きをします。カメラにとって、強い光は「眩しさ」と同じであり、露出オーバーの原因となります。NDフィルターは、この「眩しさ」を軽減し、カメラが適切な露出で映像を記録できるようにサポートします。
例えば、晴天の屋外で撮影する場合、太陽光が非常に強いため、カメラの設定だけでは露出を適切にコントロールすることが難しい場合があります。シャッタースピードを速くしすぎると、映像がカクカクして不自然な動きになってしまうことがあります。絞りを絞りすぎると、回折現象によって画質が低下する可能性があります。
このような状況でNDフィルターを使用すると、レンズに入る光の量を減らすことができるため、適切なシャッタースピードと絞りの設定で、理想的な映像を撮影することが可能になります。
なぜNDフィルターが必要なのか?
映像撮影において、フレームレートとシャッタースピードは、映像の品質と表現に大きな影響を与える重要な要素です。
フレームレートとは、1秒間に表示される画像の枚数のことで、「fps(フレーム/秒)」という単位で表されます。一般的な映像制作では、24fpsや30fpsがよく使用されます。
シャッタースピードとは、カメラのシャッターが開いている時間のことで、光をイメージセンサーに当てる時間を制御します。シャッタースピードは、通常、1/30秒、1/60秒、1/1000秒などのように、秒の分数で表されます。
映像制作の分野には、「180度ルール」と呼ばれる考え方があります。これは、自然なモーションブラー(動きの残像)を得るためには、シャッタースピードをフレームレートの約2倍に設定するのが理想的であるという経験則です。
例えば、24fpsで撮影する場合、シャッタースピードは1/48秒(近い値として1/50秒を使用することが多い)に設定するのが望ましいとされています。60fpsで撮影する場合は、シャッタースピードを1/120秒に設定します。
しかし、晴天の屋外で1/50秒や1/120秒といった比較的遅いシャッタースピードで撮影すると、レンズに入る光が多すぎて、映像が白飛びしてしまう可能性が高くなります。
ここでNDフィルターの出番です。NDフィルターを使用することで、レンズに入る光の量を減らし、適切な露出を得ることができます。これにより、理想的なフレームレートとシャッタースピードを維持しながら、美しい映像を撮影することが可能になります。
また、NDフィルターは、クリエイティブな表現にも活用できます。例えば、滝の流れを滑らかに表現したり、車のライトの光跡を美しく捉えたりするなどの効果を得ることができます。
NDフィルターの種類と選び方

NDフィルターには、光を減少させる量によって様々な種類があります。NDフィルターの濃度の違いは、「ND2」「ND4」「ND8」「ND16」「ND32」「ND64」などの数値で表されます。
これらの数値は、光を減少させる割合を示しています。
- ND2:光量を1/2にする(1段分の減光)
- ND4:光量を1/4にする(2段分の減光)
- ND8:光量を1/8にする(3段分の減光)
- ND16:光量を1/16にする(4段分の減光)
- ND32:光量を1/32にする(5段分の減光)
- ND64:光量を1/64にする(6段分の減光)
一般的に、数値が大きいほど減光効果が高くなります。
NDフィルターを選ぶ際には、撮影するシーンの明るさに合わせて適切な濃度のフィルターを選択する必要があります。
例えば、少し曇った日の屋外であればND4やND8、晴天の屋外であればND16やND32、非常に明るい環境であればND64などのように、状況に応じてNDフィルターを使い分けることが重要です。
NDフィルターには、固定式NDフィルターと可変式NDフィルター(バリアブルND)の2つの主なタイプがあります。
固定式NDフィルターは、特定の減光量を持つフィルターであり、可変式NDフィルターは、1つのフィルターで減光量を調整できるフィルターです。
可変式NDフィルターは、状況に応じて素早く減光量を変更できるため、非常に便利ですが、いくつかのデメリットも存在します。
可変式NDフィルターは、構造上、フィルターの端でX状のムラが発生したり、色ずれが起こったりする場合があります。また、画質が固定式NDフィルターに比べて劣る場合もあります。
NDフィルターを選ぶ際には、画質、耐久性、レンズとの互換性などを考慮することが重要です。
安いNDフィルターの落とし穴
NDフィルターは、価格帯が非常に広く、安価なものから高価なものまで様々な製品が販売されています。しかし、あまりにも安価なNDフィルターは、画質に悪影響を与える可能性があるため、注意が必要です。
低品質なNDフィルターを使用すると、以下のような問題が発生する可能性があります。
- 周辺光量落ち:画面の周辺部が暗くなる現象
- 色かぶり:画面全体が特定の色味(緑や赤など)に偏る現象
- 解像感の低下:映像がわずかにぼやける現象
これらの問題は、映像の品質を著しく低下させ、撮影者の意図を十分に表現できない原因となります。
特に、ドローンでの撮影では、広大な景色をダイナミックに捉えることが多いため、画質劣化や色かぶりは非常に目立ちやすいです。
美しい映像を撮影するためには、ある程度信頼できるメーカーのNDフィルターを選ぶことをおすすめします。
NDフィルターメーカーとしては、PolarPro、Freewell、Tiffen、PGYTECHなどが有名であり、これらのメーカーは、ドローンやアクションカメラ用に高品質なNDフィルターを展開しています。
FPVドローン撮影におけるNDフィルターの重要性
FPVドローン撮影は、ドローンに搭載されたカメラの映像をリアルタイムで見ながら操縦する撮影方法であり、その臨場感あふれる映像は、視聴者に強い没入感を与えます。
FPVドローンは、高速で複雑な動きをしながら撮影を行うため、映像のブレを適切にコントロールし、滑らかな映像を記録することが非常に重要です。
映像のブレは、シャッタースピードの設定と密接に関係しています。シャッタースピードを遅くすると、モーションブラー(動きの残像)が発生し、映像が滑らかになります。しかし、シャッタースピードを遅くすると、レンズに入る光の量が増えるため、露出オーバーになりやすくなります。
ここでNDフィルターを使用することで、光の量を減らし、適切なシャッタースピードで撮影することが可能になります。
特に、4K120fpsなどのハイフレームレート撮影では、通常以上にシャッタースピードが速くなりやすく、強めのNDフィルターが必要になることもあります。
また、FPVドローンは、屋外の明るい環境で飛行させることが多いため、常に光量コントロールを意識することが重要です。
NDフィルターは、FPVパイロットにとって、まさに「マストアイテム」と言えるでしょう。
NDフィルターのメンテナンスと保管
NDフィルターは、精密な光学機器であるため、適切にメンテナンスと保管を行うことで、長く良い状態を保つことができます。
NDフィルターの清掃は、柔らかいブラシやブロアーなどを使用して、優しくホコリや汚れを取り除くことが基本です。指紋や油汚れが付着した場合は、レンズクリーナーとレンズクリーニングペーパーを使用して、円を描くように軽く拭き取ります。
NDフィルターを保管する際には、傷や衝撃から守るために、専用のケースやポーチに入れることをおすすめします。また、高温多湿の場所や直射日光の当たる場所は避け、風通しの良い場所に保管することが重要です。
NDフィルターの寿命は、使用頻度や保管状況によって異なりますが、一般的には、傷や汚れが目立つようになったり、画質に影響が出始めたら交換の目安となります。
NDフィルターを長く使うためには、丁寧な扱いと適切なメンテナンスが不可欠です。
まとめ
NDフィルターは、カメラに入る光の量を調整し、映像表現の幅を広げるための非常に重要なアクセサリーです。
人間のサングラスのように、強い光を遮り、適切な露出を得ることで、より美しい映像を撮影することが可能になります。
特に、自然なモーションブラーを表現したい映像制作や、臨場感あふれる映像を記録したいFPVドローン撮影においては、NDフィルターは欠かせないアイテムです。
NDフィルターを選ぶ際には、撮影シーンの明るさに合わせて適切な濃度のフィルターを選択し、安価すぎる製品には注意することが重要です。
この記事を参考に、あなたもNDフィルターを効果的に活用し、ワンランク上の映像表現を楽しんでください。